ウソの国-詩と宗教:st5402jp

キリスト信仰、カルト批判、詩のようなもの、思想・理念、数学・図形、などを書いています。

年寄りです。1954年2月24日、長崎市の生まれ。17か18歳で、佐世保で洗礼を受けたクリスチャン。現在、教会へ行っていない逸れクリスチャン。ブログのテーマは、キリスト信仰と、カルト批判が中心です。ヤフーブログから移行してきました。ブログは、2010年からなので、古い記事も多いです。


  その時
 
その時は理由もなく
見捨てられた路地裏の扉を開く
そうして傾いた壁と影の間に
時間を泳ぐ蛍火を
その時は条件もなく
見放された旅に行く先を告げる
そうして寺院の古き呼び名と敷石の間に
金箔よりも薄い宇宙の星を
写す 刻み込むなら今 と
何故なら決して
与えはしない から
路地は長く続かず
旅人はいずれ去り
再び見捨てられ見放されるとき
幻ではなかったと
うちに鳴り響く鐘の音に刻もうとしても
その時はすでに過ぎ去っている
あらゆるレンズは役に立たない
共鳴しない響きは振幅を失う
果てしない遠景を前に呆然と残される
二度とない約束を破った後のように
 
(1997年4月29日)
 
 
  テレビをつけようとして
 
テレビをつけようとする
やめる
しばらくしてまたテレビを
しかしやめる
特に見たい番組があるわけではないが
テレビをつけようとする
そして何故かやめる
そして何故か正座している
昔々叱られるのを待っていたときのように
 
(1997年5月4日)
 
 
  泥の視線
 
空を向いて笑った
踊るように泣いて笑った
波動は発条(ぜんまい)よりも古く
破り捨てた画用紙の佇まいで
見下ろされたものが次々と
潰されてゆく地平で
虹の滴(しずく)を浮かべては沈む
泥の視線をこよなく愛した
 
(1997年5月11日)
 


  見つめていたい
 
私の心に慈愛の目があったなら
あなたが私から何を奪っていくのか
静かに見つめていたい
私があなたから奪ったものを
あなたが取り返すのを見ていたい
あなたが私を嫌うなら
嫌われた裸のままの心で
どこが傷つくか見つめてみたい
あなたは傷つき
私も傷ついた
傷つけることで傷つき
傷つくことでわかるものがあるなら
あなたの心に同期して
傷が示すものを知りたいと思う
私がまだ泣けるなら
奪われなかったもののために
泣きたいと思う
すべて私が
まだ人間であるなら
あなたの心を癒すよりも
あなたの心を聞きたいと思う
耳を澄まして
あなたの傷ついた
あり方を知りたい
私の傷ついた
あり方を知るために
そしてゆっくりと
考えてみたい
人間はどのようにして
傷ついていくのかを
病める心の
癒えぬ部分の
こだわりに
言葉で上手にあてる
包帯を持たない
私の貧しさを
あなたが許せない分
私が傷つき
年老いていく姿を
今しずかに
見つめていたい
裁かれるときを待ちながら
 
(96年か、それ以前)
 
 
  アノニマス
 
気がつくと群れの中にいた
仕事をしているらしくもあり整然として
そのくせ働いたときの充足感も
疲労さえもなかった
そこではお互い顔を見ることも
肉声を聞くこともなかった
ある者は快く語り
ある者は苦悩をのぞかせ
ある者は淡々と語った
首のない会議
しかしその集まりは匿名ではなかった
それぞれが仮の名であれ名乗り
責めがあれば負う覚悟さえ示していたのだ
肉声を聞こうとし語ろうとし
高めようとする姿勢
それがすべての始まりであった
もどかしく伝えようとして伝わらないもの
もどかしさゆえに語ろうとしていた
それが終わりのすべてであったかもしれない
ある者はうなだれて去り
ある者は再開を期して帰っていった
 
気がつくと独り疲労があった
誰のために、と
ふと思った何のために
切られることもなく選ぶこともせず
自分を切り刻んで見せるだけで
高められる何があろうか
失ってみれば確かにその通りであった
旅立たせる翼はなくても
そばだたせる耳ぐらいは欲しかった
それだけはどうしても
ここでは完ぺきなほどに匿名の
独りの声は宙にかき消え
磨いてきたつもりの刃に
ぽつぽつと浮いている錆を見つめていた
 
(1997年3月14日)
 

ブログ始めたころに一度ずつ載せたものです。
また私にとっては97年のHPと、詩の投稿サイトに
載せた記念碑的なものなので、失礼ながら、再投稿です。
大事にしていたものが、スクロールして、ブログの書庫の
奥へ奥へ隠れて行く感じ・・・何か寂しいような・・・?
 
 
  なくしたアルバム
 
少しは懐かしくもあるけれど
格別お名残惜しいわけではない
ともかくも君らが私と別れたのは幸いだった
お互い結局
いいことばかりじゃなかっただろうから
君らが今どこにいるのか知らないが
私よりは多くの陽を浴びているだろう
私は暗いところにいる
といっても気持ちはそれほどでもない
いま会ってもわからないかもしれないけれど
君らの笑顔はぼんやり残っている
それで気分のいいときもあるのだから
起きたいときに起きて
汚れたまま街を徘徊したっていいんだけれど
なかなかそこまで気が進まない
 
私が何をしているかといえば相変わらずで
傷を集めたりしている
かすり傷、細い傷、いろいろだ
傷つきながら夢中になって
君らが丈の高い萱(カヤ)の中を
あんまり急いで走り回るから
あとで血がにじんできて
びっくりして痛がっていた傷とか
けんかしたり転んだりして
君らが遊んでつくったアザとか
私の目に
はっきり写らなかったものを集めている
そして並べてみて
くすっと笑うことだってある
君らが川や海辺や山にいても
路地や工場の跡や
お化け屋敷にいても
泥んこや田んぼとだって友達で
君らの声がきらきら輝いて
何を言っているのかさっぱりわからなくて
みんな名付けようもなくひとつだった
 
若者になって並んでいた君らはもう
埃(ほこり)を被(かぶ)った私には
ぼんやりしていて
虹の向こうでかすかに微笑んでいるんだ
あの頃は
と君らは言うかもしれないけれど
あの頃いちばん大切だったものは
君らは捨て去るしかなかったこと
私はわかっていた
君らは私と
知らないまま別れるしかなかったことも
 
君らが遊んだ人形や玩具
もう二度と触れることはないと
気づかないまま手を離した瞬間が
スローモーションのように写っているよ
 
君らが私をなくした日のこと
私は覚えている
でも君らは忘れていい
君らは皆、私を卒業していった
私は埃を被ったままでいい
これから先、君らが何か
咎(とが)められることがあったとしても
咎めるのは私の役目ではないのだから
 
(1997年2月21日)
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一応、「私」=「アルバム」のつもりです・・・。
 
 
  ハンカチ
 
自分のために
誰も傷ついて欲しくない
と君は語った
しばらくの間そのことを語った
私は一枚のハンカチを渡した
もらい物であった
私が使っていた
いくたびか汚れ
いくたびか濡れ
ときにはちり紙の代わりとなり
犬が噛んだこともあった
そのたびに洗って干した
少しは汚れや
唾液や涙液が残っているかもしれない
しかし君よ
今はそのハンカチで拭くのがふさわしい
私らの歩む先に
真っ青なだけの空があるだろうか
真っ暗なだけの夜があるだろうか
うつくしさだけで住める町もなければ
みにくさだけで去れる町もないのだ
君は語り私は聞いた
海鳴りのように遠く
耳鳴りのように近く それくらい
明らかではない私らの出会いの後
いずれ君は私を忘れ
私は君を忘れるだろう
だから君よ
この一枚のハンカチを君に渡すのは
今唯一明らかな約束の在り方として
その捨て方を君にまかせるためだ
 
(1997年3月20日)
 
 


  雲母(きらら)
 
おもいでは きららのごとく
うすく かさなり はがれて
かよう みちも とだえて
わかれてしまいそうな もろさに
おもわず つづきを おいもとめ
けられてもいないのに
ふわふわと ころがる
みかげ の いし
 
(2004年07月09日)
 
 
  うつろ
 
沈みゆく小舟が
沈んだ小舟にならない
死にたいと思うとき
この世の志は何処(どこ)にもないのに
生きていたくないと思いながら
肉体は虚(うつ)ろな目で
テレビの箱の中で動いている
異国のニュースを眺めている
目が虚ろ
と心に写るとき
あらゆる体は
立位を保持できていない
姿勢のない明け暮れ
希望は生きるためにあるのだが
生きることから離れた希望に生きている
 
(2004年09月16日)
 
 
  母を見るとき
 
車のハンドルを握りながら
実家から遠く離れた町で
知っている人など誰もいない街角の
歩道を行く高齢の女性に
母の後ろ姿を見てしまうとき
ひととき失われる場所と時間は
母の曲がった背中のように
あまりにも脆(もろ)く
儚(はかな)く過ぎて
あとには彼方(かなた)に残したまま
見捨ててきたかのような
小さな水たまりが揺らいでいる
 
(2004年12月20日)
 
 
 
 


  見ている
 
瞳を広げた目に
何も見えない
目をあけた顔は
何も見ていない
体をあけた心は
何も見せてはいない
心をあけた体は
何かを見せている
心を閉じた顔は
何かを見せている
何かを見ている
必ず
 
 
  見えない
 
雨のために見えない
その向こうの雨
霧のために見えない
その向こうの霧
その中を走っているバイク
光と闇
光のために見えない
その向こうの闇
闇のために見えない
その向こうの闇
光のために見えない
その向こうの光
その中を走っている人々
人々と人
人々のために見えない
その向こうの人々
誰が誰を虐げたわけでもない
かどうか知りようもない
見えるもののために見えないもの
その中を走っている
自分のために見えない自分
 
 
 

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