っ        戸田聡
 

 
 別に「っ」である必要はなかったはずだ。「あ」なら感嘆詞であり得たし「ん」なら軽い肯定か下に「?」を加えれば疑問か好奇を示すこともできた。しかしそれだけでは文章にならない。他の文字から書き始めれば別の意味かイメージを連ねることも出来たかもしれない。しかし私は、それだけでは文章にならない文字の中から、「っ」を題名とし本文の文頭に書いてしまった。(促音)
「っ」よ君は救いがたい
君は文頭に位置を占めてはいけない
 と言い訳めいたことを書きながら幾度かちらりと文頭の「っ」を見ている。そのたび「っ」は視覚から精神へ、私の乱れた知・情・意へ信号を送ってくる。私は鬱(うつ)状態であるらしい。君は上に文字を挿入することも下に加えることも左右に書き加えることも拒んでいるように思えてくる。なのに私はだらだらと君のあとに書いている。(促音)
 
完結とは何だろう
未完とは何だろう
誤謬とは何だろう
 推敲機能を持つワープロは文頭の「っ」に警告のメッセージを発している。私は鬱状態であるらしい。完結の実感はなく、未完は未完のままであり、誤謬の自覚は乏しい。なのに心のどこかで泣いているのだ。(促音)
ぁ ぇ ぃ ぉ ぅ(加えて促音・促音・・・・)
「っ」よ私は救いがたい
君は好きなだけリフレインをもって
文字にならない泣き声を置換せよ
 
(1998年9月23日、HPにアップ)