穴と窓       戸田聡
 
上から下まで穴だらけ
だが吸い込める穴は三つしかない
でも取り込める窓は無数にある
しかし滅多に窓は開かれない
それでも稀(まれ)に出入りする風
上から下まで穴だらけ
しかして風の方に体液は乗る
 
(1998年12月22日、HPにアップ)
 
 
  蛍光灯と車      戸田聡
 
蛍光灯は明るいけれど
部屋で聞く外を走る車の音が
何度聞いても苦しい吐息のように
聞こえてならないことがある
まるで瀕死の病人が苦痛の底から
最後に訴える叫びのように
蛍光灯の青白い光は
部屋を明るくするが狭くもする
だだっ広い夜の片隅に取り残された
ちっぽけな明暗
また車の吐息が過ぎてゆく
すでに布団の中にいて
何故か顔をしかめる
 
(1998年12月23日、HPにアップ)
 
 
  中心と周辺        戸田聡
 
物の形がはっきり分かるのは
視野の中心の狭い範囲だけ
視野の周辺は記憶で見当をつけている
ときに夜はっと驚くのは
視野の周辺に入ってきた微(かす)かな光
視野の中心と手は照明のスイッチを探す
中心部に映る光の鈍さと
周辺部に映る形の不確かさ
あるとき中心にいて
当然のように聞き流され
あるとき周辺にいて
いるはずのない不審人物になってしまう
 
(1998年12月23日、HPにアップ)
 
 
  一年草         戸田聡
 
芽吹いて
伸びて
咲いて
枯れる
毎年同じ
でも繰り返しはあり得ない
見分けがつかないとすれば
いつどこで芽吹いても
こうしなければ間に合わない
という最短距離を生きているから
 
(1998年12月29日、HPにアップ)
 
 
  あるとき        戸田聡
 
ひとつとは限らない
連続しているとも限らない
多くは過去
あるいは架空
の引き出しに収められ
いつ
の中で最も特定できないものを
特定するかのように指している
あるいは未来
あるとき
何か気付くことが
あるかもしれないとき
 
(1998年12月29日、HPにアップ)