口笛の頃
 
もしそんなところがあったら
耳鳴りの今を去って
口笛の頃へ帰りたい
目に写る
錆びた刃物の
耳鳴りの
闇の
ざわめきを去って
 
口笛の
その吹かれたところから
小川を渡り
水音も風音も
野原と空の
ゆるやかな
うつりになって
音がしないほどの
肌に触れないほどの
気の流れ
草の揺れ
口笛の
音色の消えていく
少し先
空に召されていく
口笛が
口笛でなくなる
あらゆる見えないものと
いっしょになるあたり
 
いっしょに遊んだ
幻の少年が
消えていった
名前を与えられ
こめられたものたちすべて
名前を失い
解き放たれるところ
 
広い
ひろい
ひろ・・・

 
 
  春の名前
 
花の色・香り・ぬくもり
風の音・水の音・きらめき
空の輝き・光
春という名の季節
その中の様々の名前
 
何を得て
何を失って
この春にいる
 
子供の頃
晴れた空のまま下りてきて
小川のまま流れてきて
菜の花を揺らしながら
虫の道のりといっしょに入ってきた
まぶしかった全ては確かに
名前など持たないまま
あの頃ひとつだったのに