不眠症と祈り
 
何もかも呑み込んで夜が来る
のみ込まれて黙り込む
静けさに目を閉じる
さまざまな夜の形を打ち消して
最後に犬が吠える
眠れない人が闇に驚く
 
 祈りは夜とともにあった
 言葉は夜であった
 光は夜のかたすみに
 あやうい形で揺れていた
 祈りは涙と親しく
 いつしかお互いに拒んでいた
 涙は形にならなかった
 祈りはさまざまに否みながら
 光となって揺れていた
 光は言葉であった
 それらすべてを包み込む
 形は夜であった
 
何もかも解き放って朝が来る
沈んだ眼の水平線が離れる
あらゆる隙間から光が射し込む
数々の挨拶を抱えて出かける人々
さまざまな光の形に打ち抜かれて
眠れない人は黙り込む
 
昼となり夕となった
それがいつも一日目の終わりであり
終わりの日の始めである
 
 
  数の存在
 
名付けるのは人の都合により
数えるのも人の都合により
存在するのは神の都合による
 
人は数を考え出して便利に使った
今は数が人を便利に使っている
 
自然数の中で1が最も不思議だ
0までの道のり
マイナスまでの
小数や分数までの道のりを越えて
無限大へ
 
1からの出発
0からの出発
マイナスからの出発をして
順調に上っていった男は
限りなく大きくなることを疑いもせず
知らないところで名付けられた
虚数の束を嬉しそうに数えている