旧約・哀歌・三
 
鞭(むち)打たれよ
肉と皮は引き裂かれ骨は砕かれよ
自らを囲み閉じ込め
遠い昔に死んだ者のように
暗闇に住んで出て来ぬがよい
祈りは斥(しりぞ)けられ
道を離れ見る影もなく
灰の中に転がされよ
平安を忘れた幸福を忘れた
主に望むところのものも失(う)せ去った
苦艾(ニガヨモギ)を食らい
胆汁を戻しまた呑みこみ
自らの内部にて項垂(うなだ)れよ
軛(くびき)を負わせられるときには
救いを静かに待ち望むがいい
独り坐って黙しているがよい
口を塵(ちり)に埋(うず)めよ
どうして呟かねばならないのか
自分の罪を罰される
のを呟くことが出来ようか
主が天から見下ろしてこの無為を
顧(かえり)みられる時
にまで延々と及ぶがいいのだ
 
(1999年01月23日、HPにアップ)
(聖書をモチーフとした作は、必ずしも 聖書の当該箇所との
 内容の一致を目的としているわけではありません。)
 
 
  乞食としては
 
物乞いはしてないつもりだったのだが
施(ほどこ)しを受けている
これから先の保証は全くないのだが
今は現に施しを受けている
体力も意欲もある人々が
なかなか職にありつけない時代に
おかげで当初の予想より
ずいぶん経済的寿命が延びている
限りある運命の
徒(いたずら)のようで
拒むことをしないまま
この不安な仕組みを
有り難がってもいるのだから
右や左の旦那(だんな)様と
こちらから呼びかけて
深く頭を下げねばならないだろうか
それとも存在と引き換えでしょうか
あるいは不在と引き換えでしょうか
と尋ねてみるべきだろうか
施しとは別に今日も今
一日四回として処方された定期薬を
ゆっくり一服のむ
 
(1999年01月24日、HPにアップ)
 
 
  逃げる月
 
息子は暖炉に引き籠(こ)もり
炭(すみ)から石灰へと化してゆく
娘は街で乳首と皮を売り尽くし
路地裏の溝(みぞ)に住むことになる
母親は血走った眼で台所へ行き
コトコトと指を刻(きざ)み始める
父親は揺り椅子(いす)に腰掛け
新聞を眺めながら煙草の火を吸い込む
逃げる月日に追い立てられて
逃げたいのか休みたいのか遊びたいのか
しかし何事もなく夕食が終わり
父親はベッドに横になり眠ろうとするが
玄関のドアをノックする音がする
起きて行ってドアを開けても誰もいない
明るすぎる暗すぎる冷え冷えとして
手を擦(こす)りながら一歩外へ出れば
劫火(ごうか)のように天に向かって
燃え上がる家を背にして突っ立っている
 
(1999年02月05日、HPにアップ)