航海のあと
 
どだい長い航海などできない
今にも沈みそうな船に乗り
ちっぽけな癒しの心を懐に
小さな港から船出する前に
わかっていたはずでした
よく聞こえない聴診器に文句をつける前に
よく聞き取れない耳を
聞いたまま口をあけっぱなしの頭を
打ち砕くべきだった
船が傾いているのを
人が引き止めるのも聞かずに
海が傾いている
と言ったときには遅かったのです
 
船の残骸といっしょに
小さい島にいます
小さいものにばかり縁があるらしい
小さい懐には濡れて乾いた
小さく縮んで恐らく
他の人にはわからない微かな匂い
まだ残っています
悪いことばかりじゃなかったよな
と次から次に
波が笑顔に見えることがあります
島には地平がなくて
毎日消えてしまう足跡の
浜を除けば島の輪郭は
どこから見ても海に落ちているのでした
最初船出したときから
いつ海の深い水底へ
引き込まれてもいいつもりでした
覚悟が観念に変わっただけです
でもどうしてでしょう
波の穏やかな日にときどき
急に真顔になって
水平線を睨みつけているのは
 
(1997年4月5日)
 
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昔書いたものですが、改めて読んでみると、
あの頃からずっと、いやもっと前からかな・・・
明け暮れる日々も、詩のようなものを書くことも、
そんな感じだな・・・と思うことがあります。