弱虫で在ること
 
弱虫が捨てられたビルの根元から
這い出してきて 舐(な)め合っている
渾身(こんしん)の力で
ぶつかり暴れ叫びたいのだが
残っているのは辛うじて這う力と
潰れた顔だけだから 舐め合っている
泣くんじゃない
泣け好きなだけ
誰も頼るな自ら立ち上がれ
独りは良くない皆で寄り添え
教えられ振り回され目を回され
わかっては いない
わかってはくれない誰も
それだけ分かりやすくて
 
ときには
僅かな地熱が灼熱の炉において
身の温もりを捨てるように
割れた薄氷が零下の地において
身の冷たさを捨てるように
拾うことも拾われることもない場を
住処(すみか)として微動だにせず
微動だに出来ないことが
群れのあるいは個の
色からも熱からも解き放たれた
悦び・実り・誇りの一つの異型として
問えば誰の口からも虚無と呼ばれて
在ること
それだけ分かりにくくて
 
(2001年02月25日)
 
 
  うねり
 
暗闇の底に眠る魂が
肉体も浮かばれないように
青いだけの海はない
甲板には多くの人々が立って
闇を蹴り続けている
大きなうねりが迫ってくるのに
厚い皮だけで守ろうとするとき
すでに唾液を引いて落ちた顎と
肉の落ちた疑いの目と目が
闇よりも暗く睨(にら)み合っている
青いだけの海も空も
動かないと約束された山も土地もない
大陸の崖っ縁(ぷち)に
辛うじて水面から顔を出している
今にも崩れ落ちそうな
沈みかけた空母の甲板に
大陸の沖からの波は
温められ冷やされながら
いかなる温度とも
いかなる高度とも告げず
襲う構えを日毎(ひごと)変えながら
今日も寄せては返すのである
 
(2001年02月25日)
 
 
  個と種
 
違う遺伝子を持ち
違う学習を経た
個はあくまで個であるから
理解し合えることはないだろう
同じ遺伝子と学習経過を
一部に持っている
種はあくまで種であるから
他の種との協力よりは親密に
協力し合うことはあり得るだろう
誤解を許容した上での話で
他の種との共存を肯定した上での話で
はるかにヒトより永い淘汰の歴史を持ち
一途(いちず)に子孫を残すことだけのために
強化された遺伝子を持っている他の種に
無謀な戦いを挑もうとしなければの話だが
 
(2001年03月01日)