満開の山路
 
山路を行けば
琴の音(ね)が響き渡る
琴柱(ことじ)の両側で
血まみれの絃(いと)が
乙張(めりはり)をつける
ときに襟を立てて
満開の散り急ぐ
おなじときに
 
山路を下れば
いっときも留(とど)まってはいない
絃の響きよ
葛折りの急坂に
散り敷いて重なる音色に
いずれにせよ向きは変わるのだ
舞い曲がり滑り転び落ちる
おなじときに
 
(2000年04月12日)
 
 
  後ろの正面
 
点はあまりに小さすぎて
線はあまりに細すぎて
面はあまりに薄すぎて
立体は時間に負け続け
後ろの正面
誰も見たことがない
点を打てば長さを引いてしまい
線を引けば幅を描いてしまい
面を描けば凹凸が生まれ
立体を造れば時間に流されていて
幾たび振り返っても
いないはずの昔と今が繰り返し
お互いに行きずりの手を伸ばし
行き違いに遡り
行き倒れの未来の
後ろの正面
嫌というほど味わっている
 
(2000年04月12日)