前の記事から思い出した旧作3つ、
再投稿かどうか、はっきりしません。
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正当性
 
 
熱を持たない夕日に焼けただれた雲の下
地雷の眠る森は暗く重く沈んで
明日までよみがえることはあるまい
焼かれてもいない正当性は
例えば単に
まっすぐな樹木の
どこが微妙に曲がっているか
を問うより間違っていた
辻褄や口裏は合わせられても
夕日もなければ森もない
元々熱を持たない正当性を
作られた角度から
いくら繰り返しても
いかなる納得の念じ方も
地雷の重みを示すこともできず
ましてや夕闇の雲と地平を
鋭角に貫くものなどあるわけもない
いわれもない念仏
永遠によみがえることはあるまい
 
(1996年12月17日)
 
 
 
  動かない死
 
 
肉体は座ったまま
動かなかったので
次第に乾いていった
頭皮から離れたフケが髪の間に点々として
かつて食したであろう食物の残渣が口角でひび割れ
鼻から頬にかけての皮脂が乾いて
こわばったうろこのように落ちかけていた
 
そのまま消えていくと思っていた
座ったまま便通は圧迫され
腸の動きは眼のように不明だった
眼脂に覆われていたのである
 
やがて形なく
透き通り
消えてゆくはずのもくろみは
思いに反して
よりかたくなで
固い肉体を作り出していた
 
心は座ることができなかったので
乾いてはいても
絶えず何かを思わずにはいられなかった
とうに周囲とは無縁であったが
いつしか清潔な裸体を想像していた
 
明日はなく
昨日は捨て
今日の消滅を願っていた
来る日も来る日も
死は肉体よりも心に近く
そのくせ清潔な裸体ばかりを描いていた
 
(96年か、それ以前)
 
 
 
信じ方
 
 
病人よ
病人よ
汚れた肉体を布団に残して
どこをさまよっている
多くの顔と名前が乱れて去っていった
彼岸のあたりか
そこから命はもう行けない
魂は抜かれるだろう
抜歯のようにこともなく
麻酔でしびれた
歯肉の穴の形を
固まりかけてまだ熱を残している
血の味と臭いとともに
舌が探っている
抜かれた魂の
跡の形を探っている
 
顔のない天使の合唱が近づいて来る
♪どうしても救えない
 どうしても救えない・・・(遠ざかる)
何も知らない少女が
教えられたとおりに歌うような
くりかえしに
思わず顔をしかめる
 
恵まれているのか
試されているのか
許されているのか
裁かれているのか
わからない病人よ
信じ方を忘れた病人よ
忘恩と裏切り
魂の責め苦に寝返った
肉体は痛みを離れてゆく
 
(96年か、それ以前)