虫歯を噛む
 
 
完全に麻痺して
何も感じないのか
痛まないのか
慣れたのか
 
こちらは慣れることもなく
ときどき自分でつついてみる
痛い
やはり暗黒の歯髄で熱が疼いている
 
突っ込める痛点は幾つかあるのだが
突き刺される痛みが少なくなった
 
虫歯は腐ると痛みがなくなる
代わりに菌が
歯髄の底から広がって
骨髄炎や敗血症に
さらに脳に詰まることもあるという
 
歯科で真っ白な歯にしたとして
誰に笑顔を見せるのだろう
手遅れにならないように
健康のために
 
根こそぎ白くはなれない
硬さと脆さと
くずれていって
噛み合わせを拒んだのは
こちらではない
噛んで吐き出されては堪らない
しまいに入れ歯で咬みあうか
咬みつくのは生か死か
 
(2011年07月14日)
 
 
 
痛覚の思い
 
 
痛みがなくなることを願う
ひどいときは
痛みよりは死を願うことがある
それは治癒ではないのに
痛いときに声を出す
誰も聞いてはいないくらいに
あらゆる恨み言を吐く
亡父を呪い
先祖を呪う
何故戦争で死ななかった
いつの恨み
いつの怒り
それはそのまま自らを呪っている
いつの吐け口
赤く黒く燃焼している
心の激烈な怯え
昔ひどい痛みで気を失いかけたことがある
強い痛覚は呼吸を抑制する
あれは爆裂の波状攻撃
痛い片側からの反射的流涙
今またしてもワンサイド
夜の片隅が裂ける
 
(2011年07月14日)