海の出来事
 
 
小学校の間にクリアすべき課題が3つありました
鉄棒の逆上がり、自転車、泳ぐこと
どれも私は出来ませんでした。
中学校になって
低い鉄棒なら逆上がりは出来るようになり
自転車も何とか乗れるようになりましたが
泳げません
ある日、友だちとプールに行きました
うつ伏せで手足を伸ばして目をつぶって浮く練習
お腹に何か触る
目を開けたら底でした
また友だちは何度やっても出来ないのに
私はプールの底であぐらをかくことが出来た
導かれる結論は
私という人体の比重は1よりも大きい
 
あるとき青年の私は海に行って
泳げないので
海面が胸くらいのところで立っていました
子供がパシャパシャと泳いで来て
私の横で止まって立ち泳ぎを始めました
私は横で見ていました
バシャバシャ・・
あまり上手ではないな、練習か
私は横で見ていました
バシャバシャ・・顔が沈んだり浮いたり
私は見ていました
ゆがんだ顔がとても真剣になりました
私は見ていました
血相が変わり、すごい顔で
手を私のほうに伸ばしてきました
バシャバシャッバシャッバシャバシャバシャ
あれ?と
私は歩み寄り腕を差し出しました
その途端、子供は腕にしがみついてきました
私はしがみつかせたまま歩いて岸のほうへ戻りました
その子の友達が驚いたように
「だいじょうぶや?」とか言ってました
私は「沖へ向かうと危ない。岸に沿って泳ぎなさい」と
言えないまま離れて行きました
 
泳げない私が
少し遅れたけど
溺れかけた子どもを助けた
 
私が為すべきこと、それは正しく
それは私に出来ること
というのが
あのときほど明らかだったことはありません
あれが最初で最後だったような
 
大学も仕事もうまくいかず
還暦近くなって
テレビを見ても、誰の言うことを聞いても
もっともらしく思えるが
実は誰の言うことも信用してなくて
疑い深く
面と向かっては何も言えないくせに
テレビの名言には反名言をためしに呟いてみたり
ネットでは疑問や反対意見や批判や
暗いことばかり書いてる
 
泳げません
 
(2011年11月03日、同日若干修正)