パルス
 
 
咳込む
深夜の咳は
天使のように寂しげだ
 
胸につかえるのは
出し損ねた粘性の
小さな粗大ごみ
 
出されて寒空の下
硬く冷たい凹みの
袋の中身に応えている
 
(2013年01月09日)
 
 
 
笑う町
 
 
昼が笑い
夜が笑い
通りが笑い
ぎらぎら笑って
部屋が笑い
口が声もなく笑い
気道が音もなく笑い
腹筋が笑い
痙攣が笑う
 
しまいに
笑っているのか
何か忌まわしいものに
笑われているのかも分からなくなって
 
空気を空間を
瞬時に押して引くように
頻脈のように震わせながら
 
痛ましく笑い
笑われ
引き裂かれてゆくのだが
 
どこなのか

どこでもないのか
 
憤って笑い
悲しくて笑い
おかしくて笑い
おかしくなって笑うのに
本当に
うれしくて笑うのを見ることがないのは
 
(2013年01月09日)
 
 
 
止めてごらん
 
 
焼いてごらん この網膜
裂いてごらん この硬膜
切ってごらん この動脈
湧き水だよ 面白いよ
戻してごらん この食欲
晒してごらん この性欲
潰してごらん この贅沢
どんよりだよ 眠たいよ
殺してごらん この希望
殺してごらん この無謀
殺してごらん この骸(むくろ)
どんよりと曇った日の
山奥の涌き水を止めてごらん
 
(1998年04月13日)