現時点ではフィクションです。
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永眠時幻覚
 
 
去年は電話で済んだことが、
今年は手続きに来いと言う。
母は介護施設、兄は入院、私は無職なのだが。
金がかかるだろうと、もめたあげく
解約した生命保険の払戻金についても
証明をもらって来いと言う。
 
最近は乾いた一本調子の
事務的な声を聞くと気が滅入る。
 
ふと思いつく。
死ぬときには別の声を聞くだろう。
子供の声、女の子の声。
 
なぜなら多くの人は誰かの死に際して
背中を押してきたからだ。
祖母に冷たい一言、
うるさい伯母に邪険な態度、
父とのいさかい、
(生きている母とも口喧嘩)
後ろめたいことはいっぱいある。
 
悪魔か死神のエンジェルだろうか、
事務的な声とは違って、
あどけない声で問いに来るだろう。
 
彼らもきっと聞くのだろう。
誰でもきっと聞くのだろう。
背中を押したことを忘れている人に
思い出させるための声。
 
いつかきっと死に臨んで
少女が近くで
ささやきに来る。
 
「わかったあ?」
 
 
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現時点ではフィクションです。
 
入眠時幻覚というのは経験したことがあります。
入眠時の意識レベルが低下しつつある状態で、
幻視は煙草の煙、幻聴は私を呼ぶ声でした。
 
 
(2013年09月03日)
 
 
 
(※ 以下は、昔、父に言った一言。
  内緒のことでもないが、
  最近は、よく吐き出したくなるようです。)
 
 
父に言ったこと
 
 
昔のことである
父に言ったことがある
大学を留年して進路に迷っていた時期
「言いたいことがある」と言う父に
私は言ったことがある
「僕はお父さんを信頼していない」
父は言葉を詰まらせた
「お、お前ねえ・・・
人の気持ちというものを・・・」
そのあと父が何を言ったか
言わなかったか覚えていない
父は読書家である
戦争のために貧しさのために
大学へは行けなかったが
努力家で物知りである
父は自らを厳しく律してきた
家族のためである
だからそれなりに
人生観に自信があったのかもしれない
よく説教めいた話をした
しかしあの頃だけは
何も言って欲しくなかった
すでに二十代半ばの私を
ただ黙って見ていて欲しかった
ずるい私は承知の上だった それが
ひと言で父を黙らせる
最も有効な手段であること そして
最も父を傷つける一言だということも
 
 
(1997年08月20日)
(もちろん思い出して書いたもので、
 言ったのは1980年の少し前ごろか。
 その後も反りが合わず色々ありました。)