喪失(4)
 
 
凍土の舌と気づきもせず
固く冷たい是非をくわえて
悦び楽しむのは昔の物語から
奇跡だけを涸(から)びた唇で啜ること
 
有頂天の山に登れるほどに
口添えは救い主から限りなくて
おびただしい豆電球の賑わいに
ここだけが世界と湯通しを忘れた
 
生まれたときには何も知らず
ずぶ濡れで縋(すが)りついてからは
液体から固体への灰色の飯場で
豆腐を凍らせる生業に目覚めたのか
 
見つけたのは生もので
保存は聞かないことを学ばずに
下顎の宝石箱に入れて
処理済みのラベルを張り続けた
 
生まれてこのかた沈黙の罪を知らない
まるで見ないが聞かないが
言うだけは言う片道切符の場末では
銀食器の密室で出来た社会も
ひたすら自分びいきの贖いも
あつらえた王様は裸
 
目も嘘をつくから
目も嘘をつかれる
見なかった分だけ見誤り
救いの弁護のための告白を忘れた
 
ずぶ濡れの告白を忘れた
選ばれたが選び損ねて
砕かれるはずの罪を忘れて
油は注(さ)したが水を忘れた
 
多くの喜劇が青ざめて去った季節にも
炭素の使命が結晶化した網膜の
スクリーンを切り裂いて
寒空の粒子を光と称えた
 
凍土の洞窟に人々は住まない
凍土に同化した生き物は
息を溶かしてまた啜りながら
箱を開けて結石を眺めている
 
 
(2015年03月28日)