前例
 
 
法制度を考える人々は
多く言葉の辞書的法的意味に則して
静的合理的に考えて議論しているようだが
 
それが歴史の中で生き物のように
いかに動き
働くかを考えるべきだと思う
 
前例というものは大きく物を言う
 
安保法案は
誰がその判断を下すかという点において
為政者が判断すればそうなる
ということを可能にしてしまった
 
このことはこれからも
否定されない限り
肯定の根拠として利用されてゆくだろう
 
是非を考えるときには必ず
後に及ぼす影響や
歴史的意義というものを
可及的に予測するべきである
 
憲法改正は
特に緊急事態条項は
決まれば必ず
否定されない限り
その後に
肯定的根拠として使われるだろう
 
そうして適用を広げられた法制度は
そののち
さらに広げるための前例として機能する
 
 
憲法を改正すれば
いかなる出来事が起こっても
それに為政者が
為政者の都合で対処するために
解釈は広げられるだろう
 
憲法改正後は
現行憲法がそうであるように
ひとまわり広げられた解釈で
行われるようになるだろう
 
さらにそこから憲法は
憲法を改正したという前例をもって
さらに改正されやすくなるだろう
 
為政者を縛る憲法は
他の法制度よりも
さらに
基本的に変えてはいけない法だと思う。
 
拡大解釈で
自衛を正当化したのなら
それ以上に広げるべきではない
 
国家を大きく動かす法改正は
不十分だから変えよう
という一見合理的でも単純な是非だけではなく
招来の悪用を見越したうえで考えるならば
基本的に変えるべきではない法という見方である
 
為政者を縛るはずの憲法が
為政者を正当化する法になったのでは
もはや憲法とは呼べない
 
 
合理性だけでは動いていない
というのが特に日本の政治である
そういうこの国の有り様は
知事選挙を見ても明らかなのだ
 
それは
ある意味で日本の好ましい特徴だが
ある意味では
沼のように広がる凄みを持ち
人々の生きる願いをも呑み込んでゆく歴史の罠として
作用してきた前例がある
 
ここでも前例ということになり
前例から学ばなければならない教訓と戒めがある
 
前例は未来を変えてゆく
その責任を考えることがなければ
未来が人を前例とするだろう
大義のために犠牲はやむを得ないと
 
やむを得ない犠牲は
何に負わされて前例となったか
 
そこにあるのは
人々が流されてゆく姿として
もう政治も為政者も超えて
合理の帽子を被った圧倒的前提の
津波として押し寄せるだろう
 
 
そこで溺れて
失われていくのは
いつの時代も人間の心である
 
 
(2016年08月07日)