ウソの国-詩と宗教:st5402jp

キリスト信仰、カルト批判、詩のようなもの、思想・理念、数学・図形、などを書いています。

2010年10月


  航海のあと
 
どだい長い航海などできない
今にも沈みそうな船に乗り
ちっぽけな癒しの心を懐に
小さな港から船出する前に
わかっていたはずでした
よく聞こえない聴診器に文句をつける前に
よく聞き取れない耳を
聞いたまま口をあけっぱなしの頭を
打ち砕くべきだった
船が傾いているのを
人が引き止めるのも聞かずに
海が傾いている
と言ったときには遅かったのです
 
船の残骸といっしょに
小さい島にいます
小さいものにばかり縁があるらしい
小さい懐には濡れて乾いた
小さく縮んで恐らく
他の人にはわからない微かな匂い
まだ残っています
悪いことばかりじゃなかったよな
と次から次に
波が笑顔に見えることがあります
島には地平がなくて
毎日消えてしまう足跡の
浜を除けば島の輪郭は
どこから見ても海に落ちているのでした
最初船出したときから
いつ海の深い水底へ
引き込まれてもいいつもりでした
覚悟が観念に変わっただけです
でもどうしてでしょう
波の穏やかな日にときどき
急に真顔になって
水平線を睨みつけているのは
 
(1997年4月5日)
 
-----------------------------------------
昔書いたものですが、改めて読んでみると、
あの頃からずっと、いやもっと前からかな・・・
明け暮れる日々も、詩のようなものを書くことも、
そんな感じだな・・・と思うことがあります。
 
 
 
 
 


  黒く細い道
 
昔どこまで続いているのか分からない
黒く細い道があった
どこか人里離れたところへ
向かっているようだった
幾度か足を踏み入れそうになった
しかし早々とその道へ
行ってしまった人を見送りながら
その余りの正直さを
脳ミソが沸騰するほど憎んだので
狡くなってやろうと無謀にも
抗うことに決めた
明るく広い道を選んだつもりだった
でも本当は人里離れた所で
絵でも描いていたい暗く細い体は
場違いな明るさに
外側から腐ってゆく脳ミソを抱えて
漸く手に入れた紙切れに乗って
随分と長い間
違う感じの人々の場を奪っていた
今になって
あの黒く細い道を行くと体は
内側から腐ってゆく脳ミソを
抱えることになるのだろうか
でも黒い道から這い上がって
元の道に戻る人もいるし
光差す土色の丘へ
登ろうとする人々もいるし
あの沸騰もなくて最初から
細い道を辿れば
いずれ落ち着ける場所があって
今頃は何ものにも縛られることなく
誰も見ない絵を描いて
のんびり過ごしていただろうか
などといろいろ
首を引っ張ってみたり
髪を引っ張り上げてみたりするのだが
似たようなものだ
今は人々の場を離れて
明るくもないが黒くもない
道とも呼べそうにない
広さも長さも測れない所を
白髪が増えてゆくから多分
進行しているのだろう
いつかあの道とまた交わるだろうか
今度は正直に歩けるだろうか
腐る腐らないは道によるのではない
道は踏まれる所に出来るものだ
 
(1999年03月20日)
 
 
 
 
 


  ロングドライブ
 
夜明け前に出発した
山間の国道
深夜は殆ど渋滞がない
稼ぎ時とばかり次から次へと
大型トラックが走る
ハイビームは使えない
後ろの車に押されるように
ロービームの届かない
数十メートル先の
闇に向かって突っ込んでゆく
同時に対向車線の
ランプだらけのトラックに
目を眩(くら)ませながら
光の中を突っ込んでゆく
前方の流れに追いつくと
前を走る車の背部下端に
ヘッドライトが届く程度に
車間を保つ
あやふやな記憶のロードマップで
しばらくはカーブの多い道
それから峠を越えて
下りのカーブが続く…
 
所々に置いてある自動販売機
ひっそりと道に向けた
青白い光の領域を
しばしば打ち消されながら
道に向かって立っている
この辺り この時刻
不思議というほどではないが
人影が立ってコインを入れる姿を
まだ一度も見たことがない
何度も通り過ぎた道沿いに
水分・ミネラル・ビタミン・糖分
など栄養の端くれを
懐(ふところ)に抱えて
立っているだけだ
待っているだけだ
用済みになって
トラックの荷台に載せられるまで
 
車からの見えにくい
昼とは全く違う夜の
景色とも言えないような
流れゆく様(さま)とはいえ
いつのまにか下りのカーブに
緊張してハンドルを切っている
それほど高い山ではないが
いつ峠を越えたのか…?!
 
危うい視野と
弱々しい領域を誰かに向けて
糧(かて)の端くれでも懐に抱えて
打ち消されて なお
信じて待っている
だけの在り様(よう)で
生きたことがあっただろうか
 
峠…峠は…と思い返しているうちに
夜が明け始めた
枯れ木のルフラン
見覚えのある街並み
ちらほらと朝の人影
まだ先は長い ロングドライブ
路面上で褪(あ)せて
無力になったヘッドライトを
ポジションランプに切り替える
朝のラッシュの峠に向かって
 
(2004年01月22日)
 
 
 
 
 


  祈り・実感を
 
もうしばらく傍(そば)に
いて下さいませんか
さびしい
と声に出してしまいそうですから
しかも調子外れの怒号のように
すでに出しているのです
でも声帯は震えているものの
咽喉(のど)の吸い殻の
泡沫を振動させて
歯間を開閉しているだけなのです
いつも傍にいて下さる
と教えられるだけでなく
すべての体液が覚えるほどに
染(し)み込ませることが出来たなら
ずぶ濡れになった厚紙の五感のために
五臓六腑に満々と
湛(たた)えられた廃液のために
動きの取れなくなった五体も
眠りすぎた疲労も
声なき吠(ほ)え面も
澄んだ自虐のうちに
然(しか)りは然り
否(いな)は否
と捌(さば)き捨てて
液体へ気体へ
霧散・昇天お許しを
流れるままに乞いゆきましたものを
 
(1999年06月21日)
 


  歌えない傷
 
モチーフモチーフと
擦り合わせる空白だけは持っている
涸れた乾いた干割れたと
よく効く軟膏を欲しがって
塗られたがる傷だけは持っている
すこぶる順調です
歌えないことをモチーフに
空白を合わせて塗り固めて
設(しつら)えた線路は
白い海に向かっていて
レールは汽車を乗せ
汽車には傷が乗り
傷は何も乗せていませんから
 
(1999年03月22日)
 
 
  土竜の太陽
 
土竜(モグラ)は穴を掘る
何の必要か穴を掘る
土竜は平気で土をかぶる
日常たいてい土の中
だから目なんか目じゃない
目なんかなくても夢を見る
曇天の下の下から
太陽の夢を見る
土竜の太陽は眩しくない
眩しさは疾うに捨てたのだ
直向きに只管に
土竜は土竜の太陽を探す
土を盛り上げ掘り進む
潜り込んで掘り進む
人間は眩しさを求めて穴を掘る
土竜は眩しさを捨てて穴を掘る
わざわざ重労働なんてこともない
土竜は穴を掘る必要がない
死んだところが墓穴だ
 
(2000年04月14日)
-------------------------------------------------------
昔お笑い芸人のココリコだったか?がリーディングポエムの
集まりに参加して自作の詩を読んだ。冒険するなぁ、
恐れを知らない、結果を恐れない勇気だなぁ・・・私には
リーディングポエムも詩のボクシングも無理だが・・・
と思いながらテレビを見ていました。モグラがテーマだった。
「ガリガリガリ・・・」くらいしか記憶に残っていないが、
モグラ?・・・モチーフとしては・・・ちょっと面白いかも
・・・などと思ったことで・・・後に書いたものです。
お笑いにもなりそうにないけど・・・失礼。
 
 
 
 
 

このページのトップヘ