夜の絵の記憶
夜の波は銀箔のしぶきを上げて
島の海岸に打ち寄せる
海岸に沿って見たこともない草木の
影の列から金箔の星が昇る
雲に乱された空は深い深い底だ
波と空の間、陸と空の間
重く沈みながら閃光が行き交い
原始の力をむき出しにしあるいは蓄え
飾ることなく
手を加えられることを明確に拒否している
誰も寄せ付けない夜に
異形の光が昇り沈み
落ちて跳ね返り放たれ叩かれ
それがそのまま異形の闇の連なり
さまざまに生きて
死んでゆく様子の中に
人影はまるでない
気配すら
いちばん最初に拒まれたかのように
いたるところにある
ここは禁断の島のひとつ
生誕の場であり墓場である
それら二つが光の速度と闇の速度で
儀式もなく記録もなく同時に営まれている
もし間違って一人でも
この浜に人を立たせたなら
一言もなく夜の場に圧倒され
足跡も残さず消滅するだろう
(1997年2月11日)