妄覚
妄覚というものを知っているか
それは果てしない詩だ
しかも文学ではない
むしろ癌の増殖の無秩序だ
誰にも理解されることのない
名前のない
目まぐるしく歪んで
人間に正当に属する
形とも
色とも
声とも認めてもらえないものだ
しかしその中からかつて
それら以上のものを
ぶつけられたことがある
(1997年1月12日)
冬の生殖
胸は吹き抜けの希望に満ちている
くまなく暖めるのは至難の業(わざ)だ
腹は吹き溜まりの欲望に満ちている
ほどよく排泄しないと痼(しこり)になる
頭は吹きさらしの妄念に満ちている
直しても整えても破裂し続ける炎症だ
飛んでけ飛んでけ
消えるも加わるも風の生殖だ
枯(から)びた指南の技(わざ)だ
(2001年01月02日)
凌ぐ癖
取りとめもなく湧いてくる妄念を
止めることは困難だし
思考や感情を直接止めることは難しい
けれど乱れる波があまりに苦しいとき
意欲を発動すれば罪を犯すなら
元々乏しい意欲がますます低下して
すべての振幅が縮小する
という凌(しの)ぎ方がある
動機と興味が好ましく誘うまで
何もしなくなる
多くは弛緩と脱力を伴う
情動麻痺に似ている
感情鈍麻にも似ている
経験的な条件反射のように
身につけてしまう
ときにはそれがよい
ときにはそれが酷(むご)い
(2010年11月29日)